内井惣七 
講談社現代新書

1988初版

新書

B
多少とも論理学をかじった人なら、「ホームズの推理は帰納推理なのだ」といって満足してしまうかもしれない。しかし、演繹的推論でない推理をすべて十把ひとからげで「帰納推理」と名付けても、(1)の推理の本性が明らかになったわけではない。確かに、不確実な推理すべてを総称的に「帰納推理」と呼ぶことはあるが、19世紀においてさえ、「帰納」という語にはもっと正確な意味付けがおこなわれていたのである。後に詳しく述べるように、「帰納」という言葉は、実は、19世紀の科学方法論をみるときのひとつのキーワードなのである。それはともかく、ホームズの名人芸は、まさにこのような不確実で例外がありうるはずの推理を使いこなして、正しい結論にたどりつくところにある。(本書より)